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いきいき健康大使3人の動画メッセージ

女子栄養大学・大学院 教授(食生態学研究室) 武見ゆかり 先生からのメッセージ

「野菜を+1皿」の一歩先を考える

この記事を御覧になっている皆さん、是非、今から「健康のために野菜をプラス1皿食べる」ことを、具体的に、どうやっていこうか、の視点で一緒に考えてみませんか?

現在、日本人の野菜摂取量目標は、平均350gと定められています。なのですが、実際の平均摂取量は280gで、10年以上前から数字がほとんど動いていません。あと70gを食べてもらうために、どうすれば一人ひとりのアクションになり、この国全体の健康寿命の延伸につながっていくか、を踏みこんで考えてみたいと思います。

そこで先ずは、性年代別で、野菜の摂取量に違いがあるかどうかをみてみましょう。厚生労働省の一番直近のデータによれば、300g以上食べているのは、60歳以上の年代で、若い方ほど摂取量が足りていないことが、わかりますね。

年代別野菜摂取量

働いたり、遊んだり、忙しい毎日を送る方が多いですし、若いほど“健康のために”何かを行うということは努力しにくいものですよね。もちろん、350gという野菜を食材として使って自分で作って食べる、ということも大事ですけれども、年齢・ライフスタイルや健康意識の状態に合わせて、野菜を食べていただくことを促進するために、

◆食材料選択型 :1日に野菜を350g摂りましょう(例:学校教育や自治体の教室での指導など)
◆料理選択型  :1日に副菜を5-6つ摂りましょう(例:食事バランスガイド※)
◆食行動型   :毎日プラス1皿野菜を食べましょう(例:スマート・ライフ・プロジェクトの呼びかけ)

といったように,同じ食物選択を促す場合でも,食品・食材料レベル,料理レベルなど,アプローチの方法は異なります。

それから、この+1皿を食べることで、本当に野菜の摂取量が増えるの?ということを私の研究室で追いかけてみました。「自己申告による野菜料理摂取皿数」をたずねて、何皿食べているか、を、埼玉県4市に在住の30~50歳代の男女385名を対象に,<ほとんど食べない、1-2、3-4、5-6、7皿以上>の分類で集計したところ、野菜の量は比例傾向できちんと増えていることがわかっています。(女性は、3-4皿以上になると、280g強で数字に差がないことも判明しました。)[小澤啓子,武見ゆかり他.栄養学雑誌 2013;71(3):97-111]

その次に、野菜を一定量食べている人はどんな食べ方をしているのだろうか、ということも、検証してみました。いろいろな食事記録を分析した結果、いわゆる野菜が中心になったサラダや根菜煮物のような野菜だけの「単独の料理」と、カレーライスや焼きそばのような「複合的な料理」に分けたところ、野菜の摂取量に変化が見られたのは「単独料理」だけでした。[小澤啓子,武見ゆかり他.栄養学雑誌 2013;71(6):311-322]  やはり、野菜は、ある程度まとまった量を食べるようにすることが、大事なんですね。

ということで、野菜を多く食べるために、最もシンプルなアクションとして+1皿が有効というのが、ご理解いただけたのではないでしょうか。

+1皿の一歩先を考える上でのポイントをまとめますと
【1】野菜を主材料とする料理を食べる
【2】1回に小鉢1皿以上(約70g、片手分位)のサイズの料理を食べる
【3】生野菜だけではなく、加熱した野菜料理を食べる(嵩の縮小、味のひろがり、等)

もうひとつ野菜摂取量に関連して「地域差」ということをご覧いただきたいと思います。

野菜摂取量の地域差

これは県別の野菜摂取量のグラフです。よく食べているのが長野県、島根県、新潟県で、350g前後です。そして、最も不足しているのは愛知県で、男女ともに野菜摂取量が一番少なく、一番多い県との差はちょうど70g=1皿分位、違うのです。場所によって差があるんですね。

このグラフに★印、がついているのは、なんと食塩摂取量の全国上位6県なんです。県全体の比較で個人の比較ではありませんので、一概にはいえませんけれども、野菜摂取の量が多くなると、和風の煮物なども多くなり、結果として食塩摂取量が増えてしまう、という関係がわかります。

したがって、野菜の量を増やす+1皿のアクションをする場合には、今まで定番だった野菜料理を増やすのではなく、ちょっと違う方向、内容を変えていくですとか、質を考える、ということと併せて選択していくことが、必要な段階に入ってきているのではないでしょうか。

そして、地域の特性にも表れていたように、食生活改善の取り組みは、「これをしなさい」ということをやるのではなく、地域の風土、根付いている食文化であったり、摂取対象の特性にあわせて、多様性が求められているのです。

これからの「日本の健康的な食生活」を描く

上述のように、野菜摂取をはじめとする+αの踏み込んだ多様性の必要さ、については申し上げたとおりです。一方で、日本人の約8割の方が食塩摂取量過多であり、その低減に向けては、やはり国全体を動かしていくようなポピュレーションストラテジーが必要です。ここからは、食の環境整備、というお話をさせていただこうと思います。

今、厚生労働省において、私も関わらせていただいている『日本人の長寿を支える「健康的な食事」の検討』が、はじまっています。さまざまな食分野に関わる専門家が集まり、一番はじめに取り掛かったのは、健康な食事とは何なのか、という捉え方の議論からでした。

野菜や食塩、適正体重の維持などの栄養面の要素はもちろん、それだけではなくて、実は美味しさや楽しさ、食文化、地域産物の活用、なども「日本人の健康な食事」にとって重要な構成要因だ、ということが改めて浮き彫りになったんです。そして、そういうことを全部含め、「健康な食事とは、健康な心身の維持増進に必要とされる栄養バランスを基本とする食生活が『無理なく持続している状態』」ということに整理がまとまりつつあります。

日本人の長寿を支える「健康的な食事」を構成している要因(例)

この図は、日本人の健康の食事のための要因を書きだしたものです。そして、これらの多様な要因を視野におきつつ,自らの食の選択を考えることが,結果として栄養バランスのよい食事につながるような仕組みをつくることで,すべての人が「健康な食事」を実現できる機会を拡大し、継続を支援していくこと、それが、これからの日本の食生活の目指す方向でもあります。

そのための基準づくりも、この検討会で具体的に進めているところです。この基準づくりのためにポイントになっているのが「(きっちり3食、食事計画を立てている方は別ですが…)多くの人が、食事で何を食べるのかを選択するのは「今何を食べようかな」のこの「1食」を選ぶ」ということでした。言われてみると、当たり前のような気がしてしまいますが、今まで「この1食をどうやって選ぼうか」の基準はなかったんですね。今後、その1食を選ぶ際の基準は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアをはじめ、外食、中食を問わず、いろいろなところで、食事に基準を示すマークをつけていきます。

この検討状況について、詳しく御覧になりたい方は、是非、厚生労働省公式ページをおとずれてみてください。
日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会報告書および普及啓発用スライド(概要版及び詳細版)

なぜこうした基準をつくり環境整備を進める必要があるのか、ということについて、最後にお話したいと思います。

理由のひとつとしては、平成からあがり続けている、日本人の食の外部化という状況です。自分で食材を選び、栄養やエネルギーをコントロールしながら食事をする、という率が下がっていて、中食・外食にゆだねることが多くなっているからこそ、自分でつくらなくてもいいので、栄養バランスや、おいしさ、楽しさがあって、健康的な食事の選択が可能で、続けられる状況・環境を、創造していくことが、時代として重要なことなのです。

健康的な食事、というのは、個や家族、といった場所から、社会全体でつくっていくものになりつつあります。企業や団体、自治体の皆さんが、手を取り合い、同じ目標を目指して歩んでいけるよう、この記事を読んで下さった方が少しでも、次の取り組みに向けて何をしようか、と考えて下さるきっかけになれば、幸いです。

最後に、今後の方向性を今一度、まとめて締めくくりたいと思います。

【野菜「+1皿」からの発展!】
◆その1皿の内容に、+αを加えてみましょう ~単独料理/減塩/加熱…~
◆地域や対象特性に合わせて、多様に展開していきましょう
◆健康な食事を選び、実践できる環境整備の強化&啓発普及を統合・促進しましょう

健康な食生活で、健康寿命をのばしましょう!

武見 ゆかり(たけみ ゆかり)先生 プロフィール

女子栄養大学・大学院 教授 食生態学研究室

東京都出身。慶應義塾大学文学部フランス文学専攻卒。編集社勤務を経て、香川栄養専門学校栄養士科卒、女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。女子栄養大学助手、専任講師、助教授を経て、2005年より現職。管理栄養士。博士(栄養学)。
農林水産省・厚生労働省「フードガイド(仮称)検討会」委員の一人として「食事バランスガイド」作成にも尽力。その他、内閣府「食育推進会議」委員、厚生労働省「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会」委員、農林水産省「食料自給率向上協議会」構成員などを歴任。